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大阪高等裁判所 昭和56年(ネ)628号 判決

控訴人 日本耐火工業株式会社

右代表者代表取締役 山下幸太郎

右訴訟代理人弁護士 丸山英敏

同 菊井康夫

被控訴人 国

右代表者法務大臣 奥野誠亮

被控訴人 京都府知事 林田悠紀夫

右被控訴人両名指定代理人 片岡安夫

〈ほか六名〉

被控訴人 新土木建設株式会社

右代表者代表取締役 土田司郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2  被控訴人らの原判決添付物件目録記載の土地のうち同添付図面(一)記載の赤斜線部分(同図面(二)記載のウメモドシ杭No.0、同No.1、同No.2、同No.3、同No.4、同No.5、同No.6、同No.7、同No.8、私設杭EA、同EB、丁張杭No.8、同No.7、同No.6、同No.5、同No.4、同No.3、同No.2、同No.1、同No.0、ウメモドシ杭No.0の各杭を順次直線で結んだ範囲内の部分)の占有を解き、控訴人の委任した京都地方裁判所福知山支部執行官にその保管を命ずる。

3  執行官は、被控訴人らが右赤斜線部分に対し工事をしないことを条件として、被控訴人らにその使用を許すことができる。

4  執行官はその保管にかかることを適当な方法で公示しなければならない。

5  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

との判決

二  被控訴人ら

主文と同旨の判決

第二当事者の主張及び疎明

原判決事実摘示と同じであるからこれを引用する(但し、原判決二枚目裏三行目冒頭に「第三、疎明」を加える。)。

理由

一  被控訴人国は同京都府知事に対し福知山市大内地内の河川改修工事を機関委任事務として委託し、同知事が被控訴人新土木建設株式会社に右工事を請負わせ、同会社が原判決添付物件目録記載の土地のうち同添付図面(一)記載の赤斜線部分の土地(以下本件土地という)において右工事をしていること、控訴人がけい石の採掘権(京都府採掘権登録第三四五号)を有し、その鉱区に少なくとも本件土地の一部が含まれることは当事者間に争いがなく、本件土地に右工事により堤防が築造されると鉱業法六四条により控訴人はその堤防から地表及び地下とも五〇メートル以内の場所において右けい石の採掘権が制限されることは明らかである。

二  そこで、控訴人は右採掘権に基き被控訴人らに対し右工事の禁止を求める妨害排除及び妨害予防請求権を有するかについて判断する。

1  被控訴人国が少なくとも本件土地の一部についてその所有権を取得していることは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によると、被控訴人国は本件土地のうち右所有権を取得していない土地についてはその所有者から右河川改修工事のために使用することの承諾を得ていることが認められる。

2  《証拠省略》によれば、控訴人(昭和四五年一〇月会社設立以前は旭珪石鉱山こと山下幸太郎)は昭和二八年頃当時の土地所有者の中六人部村との間で期間五年の約束でけい石採掘のため土地使用契約を結び採掘したが、右期間満了とともにこれを中断し、その後再開したものの昭和四六年一〇月頃右採掘の事業を休止し、現在に至っていることが認められる。そして現在控訴人が本件土地について土地所有者からけい石採掘のための土地使用契約を結んでいることを疎明する資料はない。

3  控訴人は昭和四六年一〇月頃から右けい石採掘の事業を休止しているが、現在同事業を再開する意思及び能力を有しているかについてみるに、これを肯定する《証拠省略》は、資金、利益、販売等の事業計画に具体性を欠くうえ、控訴人が昭和五四年一〇月頃被控訴人国が福知山市字大内小字庵戸の土地を本件河川改修工事のため取得したことを知る(同事実は《証拠省略》により認められる。)以前に、控訴人が右事業再開のために具体的な準備行為をしたことを疎明する資料がないことに照らし、信用できず、他にこれを疎明する資料はない。

また、本件土地及びその西側の控訴人が採掘権を有する鉱区に存在するけい石の質、量及びそれを採掘して得られる控訴人の利益について、《証拠省略》は直ちに信用できず、他にこれを明らかにする資料はない。

4  本件河川改修工事概の要及びその工事の必要性は原判決理由三に認定のとおりであるからこれを引用する(但し、原判決四枚目表四行目「第二号証、」の次に「第一二号証、」を、同六行目「第五」の次に「、第一〇」を、同五枚目二行目「進めておること、」の次に「本件土地は右工事のため必要であること、」をそれぞれ加える。)。

以上によれば、被控訴人国は本件土地において土地所有権及び本件工事のための土地使用権に基き本件工事を進めているのに対し、控訴人は本件土地の使用権を取得していないが、前記採掘権を有するものであるが、本件工事によって控訴人の右採掘権が制限される場合、どちらの権利が優先するかは双方の本件土地の必要性、それが拒否された場合の双方の損害等を比較検討して決されるところ、前記認定事実によれば、被控訴人国は度重なる水害防止のため地元住民の強い要望に基き本件河川改修工事を行ない、その工事のために本件土地を必要とし、本件土地での工事が不可能となれば水害の防止が困難となって地元住民の生命、財産に甚大な被害が生じることが予想されるのに対し、控訴人は昭和四六年一〇月以降けい石採掘の事業を休止し、事業再開の具体的な見通しもないうえ、事業を再開したとしても本件工事によって採掘が制限される損害額も明らかでなく、損害が発生するとしてもその損害は金銭によって補償しうること等を考慮すれば、控訴人の採掘権が被控訴人国の本件工事によって制限されることがあってもやむをえないというべきである。

三  そうすると、控訴人は被控訴人らに対し採掘権に基く妨害排除及び妨害予防請求権を有しないというべきであるから、結局本件仮処分申請は被保全権利の疎明がないことに帰する。そして本件は事案に照らし保証をもって右疎明に代えさせるのは適当でないので、本件仮処分申請は失当として却下すべきである。

四  よって、本件仮処分申請を却下した原判決は相当であるから本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小西勝 裁判官 坂上弘 吉岡浩)

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